2015年11月5日木曜日

富士山頂 新田次郎著(文春文庫)

2004年から富士山の観測所が無人化された。
このニュースを目にした時、やはり、新田次郎のこの作品を思い出してしまう。
国家的プロジェクト。

日本一の山。
自然条件の困難、組織的軋轢。
NHKプロジェクトXの素材には格好の、富士山レーダー設置事業である。

作者も気象庁関係者として富士山に関わっており、
まさにこの本を書くのに最適の人物といえる。
主人公も作家と役人を兼業している存在として形づくられている以上、
そこに作者自身の投影を見るのは不自然ではない。
たしかに、数多の困難を乗り越えて、プロジェクトは成功する。

テレビ的にはそこで話が終わるのだろう。
だが本書の真価はそんなところにあるのだろうか?
主計官との予算を巡る攻防、内部での根回し、他部署との軋轢、

そして突出した存在への風当たり。
カタルシスをもって締めることを許さない、
組織生活のリアルを作者はきちんと描いている。
苦い読後感を持とうとも、読者はそれらを受け止めるべきなのだ。
とくに本書198ページの会話ときたら!

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