2015年11月5日木曜日

愛犬家連続殺人 志麻永幸著(角川文庫)


2011年春。園子温監督作品「冷たい熱帯魚」が公開された。
この映画のモチーフになったのはまさに、本書の、愛犬家連続殺人事件である。
これは、この事件に共犯(死体遺棄)として関与した男の、モノローグ。

本書の<魅力>は、慄然とする殺人絵巻も勿論そうなのだが、
主犯格関根元のなんとも、とぼけた、コミカルな、そして人を食ったキャラクターである。
(人を食った、というのは比喩でないことに注意!)

残忍さの中にもクスリ、と笑いがこみあげてしまうキャラクター描写は、おそらくは手練れ
のゴーストライターによる筆致のなせる業なのだろう。共犯者とされる<筆者>の筆でなく。
というのも、本書の記述の水準まで、自分の置かれている状況を客観化ができるくらいなら、
おそらくは事件に巻き込まれるなどということはなかったと思われるのだ。

以下は、そんな関根元の「素敵な」セリフの抜書き。

「人間の死は、生まれた時から決まっていると思っている奴もいるが、違う。それはこの関
根元が決めるんだ。俺が今日死ぬといえば、そいつは今日死ぬ。明日だといえば、明日死ぬ。
間違いなくそうなる。何しろ、俺は神の伝令を受けて動いてるんだ」
「殺しのオリンピックがあれば、俺は金メダル間違いなしだ。殺しのオリンピックは本物の
オリンピックよりもずっと面白いぞ」
「大久保清はただのバカだ。ベレー帽を被りながら何人殺ったか知らねえが、あいつは死体
を全部残している。あんな馬鹿死刑になって当然だ。その点、おれは完全犯罪主義者だから
な」
「商売繁盛 殺しも繁盛」
「関根元の殺人哲学その一、世の中のためにならない奴を殺る。その二、保険金目的では殺
さない。その三、欲張りな奴を殺る。その四はちょっと重要だ。血は流さない。だが、一番
大事なのはその五だ。死体は全部透明にする」
「言ってみりゃあ俺は殺しの鬼平よ」

著者(というか口述者と呼ぶべきだろう)は共犯として実刑判決を受けている。
関根の手口が残忍なあまり、一連の事件に巻き込まれたことを「期待可能性がなかった」と
抗弁をしている。ある種のマインドコントロールにかかってしまい、警察に通報することが
できなかった、というわけだ。しかし、これはまことにもって身勝手な理屈だ(一審判決でも
このような抗弁は採用されていないはずである)。県警の取調官に不貞腐れて悪態をつく態度
のくだりは腹立ちを覚えるくらいだ。
この悪態の背景には担当検事との間で司法取引まがいのことがあった様なのだが・・・・。

復刊が望まれる一冊である。

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